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大阪教育大学×SPLYZA 2023年度共同研究 成果発表抜粋レポート

大阪教育大学×SPLYZA 2023年度共同研究 成果発表抜粋レポート

映像分析 共同研究 体育 ICT 小学生

2024年6月30日(日)、立命館大学大阪いばらきキャンパスにて開催された第29回日本体育科教育学会において、2023年度共同研究の成果発表(演題名:小学校体育科を対象とした映像分析ツールの活用によるコミュニケーションの促進 SPLYZA Teamsを活用した授業実践の検討)を行いました。発表内容を一部抜粋してご紹介します。

(*本ページ下部のアンケートフォームより、学会で使用した発表スライド(全39ページ)の無料ダウンロードが可能です。)

体育科・保健体育科における育成を目指す資質・能力に応じたICT活用には、各自のタブレットによる動画撮影に加えて、上空からの俯瞰的視点の撮影、実施者視点の撮影など、他視点化をサポートする周辺機器の活用や、プログラムやソフトの活用、電子ポートフォリオとしての学習成果の効果的な収集と分析などが考えらます。また、これらの活用可能性を検討し、近年のIoT技術革新を頼りに、ICT活用の有効性について検証することが課題と考えられます。

体育・保健体育の授業におけるICT活用の実態

2021年に文部科学省が行った大規模なインターネット調査の結果によると、各運動領域の活用傾向は上図のとおりで、活用領域や方法に偏りがあるようです。体育においては技能向上を目的としたICT活用が多く、特にクローズドスキルが求められる領域において多く導入されている現状があるといえます。

さらに、同調査報告によれば、ICT活用が有効と捉えている回答者の割合は97.8%に上る一方で、教員個人でICTの活用に取り組んでいるという回答は半数以下であり、ICT活用が有益であると認識しながらも活用に踏み切れていない教員が相当数いることもわかっています。

一人一台端末の実現によって体育科におけるICTの導入も拡大し、効率的な技能習得を目的とする活用は定着しつつありますが、協働学習の充実や情報共有・情報交換等、交流の促進作用についての効果検証は事例が少なく、小学校体育科での実践報告は特に限られています。

研究成果

■ 研究目的

そこで本研究では、運動学習を通じた3つの観点について学習効果を生み出すということを課題に、ICT活用の効果検証を目的としました。 ICTの役割は、普段見えにくい情報の可視化や一瞬で目まぐるしく変化してしまう状況を俯瞰的に取り出すこと、運動や課題の「分析」活動のフォローに加えて、言語化して伝え合う活動を簡便かつ効率的に行うための支援であると位置付けました。

「分析」を充実させた授業実践は、「する」「みる」「支える」「知る」などの身体活動との多様な関わりを促し、協働学習の中での交流を活性化させ、学習者相互の相乗効果を高めることができると考えたからです。特に体育では、そのアイテムやアプリケーションがあれば一人でも学習が完結できてしまうというようなものではなく、学習者同士、学習者と教員間の「学び合い」のサポートツールとしてICTを活用していきたいと考えています。


■ 研究方法

本研究では、小学校6年生の体育授業を対象に、映像分析ツール(SPLYZA Teams)を活用した「分析」活動の学習効果の検証を行いました。授業中に撮影された運動場面の動画をSPLYZA Teams内にアップロードし、学習者はそれらの動画再生・タグ付け・描き込み等により自分たちのプレーについて課題発見・解決に向けた分析・作戦立案の学習活動を行いました。そして、それらの学習活動の内容をもとに、体育実技の授業内外でのICT活用による、学習者の「分析」状況の観察評価を実施しました。

子どもたちが、プレー中やプレー後すぐに「自分たちが生み出したいプレー」が本当にできていたのかを評価することは難しく、感覚では「良いプレーができた」と思っていたとしても、実際のプレーの姿との間には乖離がある場合もあります。また、全員が共通認識を持ち、「あのプレーは良かった」と納得できることも難しいと考えます。だからこそ、客観的にプレーを見て、自分たちの理想にどの程度近づいたのか、学習課題がうまく解決されているのかを分析させることが必要であると考えました。

SPLYZA Teamsの活用により、コートの上から撮影した動画を俯瞰的に見ることで、客観的にプレーを分析でき、「どうすれば良かったのか」「どのプレーが良かったのか」と考えることが可能になります。また、課題を表出させ、チーム・自分の進むべき方向を考えさせる手段として活用することができます。

学習者間で知識・技能に差があったとしても、前回までの分析結果を授業開始時に共有することで、チーム内で共通理解を図らせ、「自分たちの生み出したいプレー」や「本時の課題」を設定することができました。それをもとに、練習やゲームで試行錯誤をしながら、チーム内で共通認識を図り、自分たちのめざす動きに向かって意図的にプレーができるようになるのではないでしょうか。また、授業を担当する教員は、クラス全体の共有ルームや、学習グループごとの共有ルームを作成し、自由に授業展開をアレンジすることができました。


■ ルール設定(速攻とセットプレー)

ゴールした時、エンドラインからボールが出た時に「速攻」か「セットプレー」のどちらかを選択できるようにしました。「セットプレー」とは、コート中央から攻撃を始めることを指します。攻撃開始時は、守備側の人数を一人減らし、アウトナンバーの状況で始めることができます。アウトナンバーでプレーを始めることで作戦を遂行しやすい状況を作り出すことがねらいです。「速攻」とは、エンドラインからすぐに攻撃を始めることを指します。相手の守備隊形が整っていない場合でも始められることがメリットであり、数的有利を作りやすい状況において力を発揮しやすい戦術です。

どちらを選ぶかは、相手の特徴や状況、自チームのメンバー構成によって変わるので、その時々のすばやく的確な状況判断が非常に大切になります。だからこそ、自チームや相手の特徴の把握に努め「分析」する必要が生じます。ルール設定の工夫により、「自分たちが生み出したいプレーをする」ためには、どちらを選択すればいいのかという課題への方向性が明確になり、「達成への学習意欲」の触発につながると考えました。


■ あるチームの1つのプレー動画へのタグ活用状況

あるチームのタグ活用状況をみると、プレー動画に対するタグ合計が、13件から34件に増加しています。授業が進むにつれて、より具体的な視点で分析ができるようになっていることもわかります。


■「SPLYZA Teams 描き込み」テキストの授業回別関連語検索結果(上位10語)

KH Coder によるテキストマイニングをおこない、Jaccard 類似性係数を用いて授業回別の特徴語を抽出しました。


■ SPLYZA Teamsによる「分析」とロイロノートを活用した個人の「授業振り返り」

映像分析ツールは、授業内外、朝活や休み時間、さらには持ち帰っての自宅学習時間でも用いることができます。そのため、タイムや距離といった物理的な記録・得点や勝敗などのスコアだけでなく、身体の変化・運動パフォーマンス、自分たちの運動の行い方を、俯瞰的(メタ認知的)に何度も捉えることが可能になりました。一人一台端末および蓄積データの活用で、時間軸に沿った成長も実感でき、授業外でもオンデマンドの協働学習の場を生み出すことができました。


■「ロイロノート振り返り」の「授業回」を外部変数とした対応分析

図中の赤字で示された数字が授業回を示します。座標(0、0)から離れると、その授業回により特徴づけられた言葉であることがわかりますが、全体を通じて「見る」「考える」「思う」という動詞からもわかるように「分析」の学習活動が充実していたことが確認でき、授業回が進むにつれて「フリー」「速攻・セットプレー」「黄金ゾーン」などの言葉が出現しています。


■ 本研究のまとめ

  1. 学習のねらいに沿ったキーワード(タグ)の出現の増加傾向が確認されました。
  2. タグとしてキーワードを強調して提示したり、授業進行に伴ってタグの追加が行われたりすることにより、授業者からの発問や助言もより的確に強調されて学習者に伝わり、「分析」の視点が明確化しました。
  3. 授業内外で運用されたコミュニケーション機能の活用は授業の進行に伴って活性化していきました。

これらのことが学習者の知識理解の促進やグループ内の円滑な情報共有、学習へのモチベーション向上に効果をもたらすと考えられ、「分析」を取り入れた協働学習の効果的実践として成果を得ることができました。今後は、SPLYZA Teamsの活用汎用性や継続的な活用による学習効果の検証を課題とし、対象を拡大して共同研究を進めていきます。

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▼大阪教育大学 表現活動教育系 橋元 真央 准教授の研究者情報はこちら
https://researchmap.jp/mao_hashimoto

以下のアンケートフォームより、学会で使用した発表スライド(全39ページ)の無料ダウンロードが可能です。